障害を持たない人は、公共交通機関を簡単に利用できることを当たり前だと思いがちだが、障害や特別なニーズがある人にとっては、話が全く違ってくる。Transreportのマネージングディレクター、Jay Shen氏に、このアプリがいかに大きな変化をもたらしているかについて話を伺った。
Jay Shen氏がセンサー技術に関する博士課程研究の一環としてプレゼンテーションの準備をしていた時分には、22万人以上のユーザーを抱える新興企業に発展し、イノベーションを切実に必要とする分野を支援する発想が生まれるとは、想像もできなかっただろう。
「学術的な聴衆に対してプレゼンを行った際に、私の研究にとても興味を持った障害者の紳士がいました」とJay氏はMaddyness UK誌に語った。イベント終了後、その紳士は私をつかまえて、さらに質問してきた。
彼はその夜、電車で家に帰らなければならないと言った。彼は車椅子の利用者で、他の合併症も抱えており、電車で何度も立ち往生した辛い経験について話してくれた。
電車や飛行機に拘わらず、公共交通機関を使う必要があると知る度に、彼は不安に駆られた。駅に着くと、電車に乗るのを手伝ってくれる人がいるかを心配し、電車に乗ったら、反対側で降りるのを手伝ってくれる人が待っているかを心配した。
Jay氏はその夜、その話に発想を得て帰宅し、その週末に、障害者の乗客が、駅員用アプリに繋げて旅行のニーズをやりとりできるアプリのプロトタイプを開発した。このアイデアは最終的に Transreportへとに発展することになる。
Jay氏はある縁で、鉄道会社との打ち合わせがすぐに決まり、その会社のアクセシビリティ委員会との別の面談に繋がった。プロトタイプのデモを手早く行うため、ミーティングは15分間の予定だったが、結局2時間になった。
「委員会出席者の顔が輝き、誰かがこのアプリで人生が変わると言いました」とJay氏は述べた。「そのことが本当に心に響いて、これは私が本当にやりたいことだ、と思いました。
「MVP版として完成させるために、私はさらに技術開発を進めました。その後、別の鉄道会社でトライアルを開始しました。やがてBBCが弊社の存在を知り、2017年にBBCクリックで6分間の特別番組が放送されました。その後、計画は爆発的に進展しました。さまざまな企業から連絡をいただき、それでプロジェクトが正式にスタートしました。」
しかし、COVID-19により予想外な展開となった。ほぼ全移動手段がストップして、Jay氏はこのプロジェクトが終わってしまうことを予想していた。そうなる代わりに、鉄道業界はこれを新技術導入の絶好のチャンスとして利用した。
「2020年9月にスタッフ用アプリを立ち上げましたが、すぐに処理時間の面でオペレーターにメリットがあることが判明しました」とJay氏は言う。「以前は、障害のある乗客からの予約は、電話対応、情報の記入、駅へのメール送信など、鉄道会社が1件の申請を処理するのに約35分かかっていました。当社のアプリは、そのような手間をすべて排除し、処理時間を数秒に短縮できます。」
Jay氏とチームは、6ヵ月後に乗客用アプリをソフトローンチし、委員会関係者や初期採用者からフィードバックを得た。そして、2021年5月にCOVIDの規制が解除されると、Transreportはアプリの一般公開を行った。
「それ以来、毎月2桁の伸び率を記録しています」とJay氏は語る。「私たちは約22万人の大規模なユーザーを抱えています。アプリの利用乗客は、私たちのテクノロジーを使用していない障害者よりも平均して4倍多く移動していることがわかります。」
アプリ機能を簡単に操作できるデスクトップ版を求める年配利用者に対応するため、Transreportは最近ウェブサイトを開設した。ScotRailのような鉄道会社は、追加で旅行サポートを予約したい乗客のために、このサイトに直接リンクしている。
今後に関して、Jay氏はアクセシビリティサポートは常に継続的なイノベーションを必要とする分野だと認識している。この問題に対処するため、Jay氏のチームは2年間のロードマップを作成し、アプリにさらに多くの機能を実装して、その技術が将来性を持つようにした。そしてこのスタートアップ企業は、さらに2年計画を策定している。
Transreport は立ち上げから数年で急成長し、現在ではより多くの国やセクターに規模を拡大しようとしている。
「多くの乗客からアプリの他の旅行設定に関する問い合わせが殺到しており、現在、空港やその他の公共交通機関と交渉中です」とJay氏は述べた。「全人口区分統計の最近のデータを見ると、鉄道や空港を利用する身体障害者数は2桁の伸びを示しています。英国の高齢化は急速に進んでおり、年齢を重ねるにつれて移動支援がさらに必要になる傾向があるからです。」
「生まれつき障害を持つ人は、障害者の約18%に過ぎません。つまり、障害者の80%以上が、怪我や病気などで、人生のある時点で障害を持つようになったということです」。
「明日何が起こるかは誰にも判りません。でもひとつ確かなことは、私たちは必ず年をとっていく、ということです」とJay氏は結論づける。「英国、欧州、そしてより広域に、将来の社会にふさわしいインフラを確保したいと考えており、それが私たちの次世代の目標です。」